【創作】信じるものは救われろ。【大人と子供の狭間】#5
幸い晶はたんこぶを作る程度で済み、その日の夜は夕食もしっかり食べ、元気な姿を見せ聖を安心させた。
翌日、聖はアメノウズメに言われた神社へ足を運んだ。
小さな社がある神社で神主が朝本社前に寄る程度のあまり人に知られていないほぼほぼ無人の時間が長い神社だ。
「ここで、よかったはずだけど…」
「おうとも、ここであっておるぞ転生者よ」
神社に付いた聖がキョロキョロしていると頭の上から声がする。
声のする方に目線を向けるとアメノウズメが木の枝に座り聖を見下ろしていた。
「言われた通り、きましたけど」
「うむうむ、素直でよろしいことだ」
「それで…僕の両親が死んだ理由も、ご存知とのことでしたけど」
「おや、そちらが気になるか」
「はい。…自分が転生者なのは前世の記憶があることがなによりの証拠だと思っているので…。勿論それが何を示しているのかは気になりますけどここまで育ててくれた両親の死がただの火事による死ではない。そういうことをアメノウズメ様はおっしゃっているのかと」
「ほう、聡いな。その通り。お前の生家を燃やした火はただの火事ではない」
「!」
聖の予想は的中し、アメノウズメは淡々とその事実を告げる。
聖の瞳は早く続きを聞きたいという様にアメノウズメを見つめていた。
「昨日会った餓鬼がいたであろう?あやつは黄泉の国から来たのだ」
「日本神話に出てくるあの?」
「左様。…今黄泉比良坂にある大岩の封印が弱くなっていてな。黄泉国から餓鬼等の魑魅魍魎がこ葦原中国に出てきておる」
「…なんの目的で?」
「輪廻転生の輪の破壊。…大方そう言う事であろうな。」
「…そして、出てきた餓鬼たちが僕達の世界で悪さをしている、と」
「その通り。おぬしの生家の火事の原因もどうやら餓鬼の仕業らしい」
「なんで…!」
年の割に冷静な物言いをしていた少年が心を乱し声を荒げる。
しかしアメノウズメはやはり淡々と告げる。
「…お主は黄泉比良坂の神話の内容はしっておるか?」
「…イザナギノミコトが亡者となったイザナミノミコトに追われ、大岩で黄泉平坂を大岩で塞いで黄泉国と葦原中国を分けた…」
「その通り。その続きも勿論わかるか?」
「イザナミノミコトはイザナギノミコトの仕打ちを嘆き、葦原中国の人間を一日に1000人殺すと言い、それに対してイザナギノミコトは毎日1500人の人間を産ませよう、といった内容の返事をなさったはずです」
「左様。それがこの葦原中国の人間の生死のはじまりと言っても過言ではない」
「…」
「しかし昨今は人間は生活に追われ、生命の誕生は減少しておる。…これは生死の保たれていた均衡が崩れた。…死者の数はほぼ変わらないというのにな。」
現在の葦原中国…日本は少子化と言われるほど子供が少ない現状であるのは確かである。
しかし死ぬ人間は昔から増えたり減ったりと変わらない。
時折大きな事件が起こり沢山の人間が死んだりするなど寧ろ死ぬ人間の方が多いのかもしれない。
「さて、生者が増えず死者は増える。黄泉国も無限に広いわけではない。輪廻転生の輪を崩し、黄泉国に魂が貯まっていけばどうなる?」
「…川のように氾濫する?」
「その通り。彼奴らの目的はそういうことであろう。死者を増やし、命の循環を滞らせ、そして輪廻転生の輪…二柱の神が誓約を交わした黄泉平坂の岩を壊す。」
「だから葦原中国の人間達を殺す?」
「その通り。…方法は様々だがな。ウイルスを蔓延するようにしたり、はたまた殺人願望がある人間に憑りつき殺させたり。…おぬしの生家のように何かしらの事件や事故に見せかけて殺害、などな」
たしかにここ最近そういった事が多いのは事実だ。
信憑性がある。
しかし聖にはひとつ疑問があった。
「…僕が火事で家族を亡くしたのは紛れもない事実。しかし僕はそれを貴方様には話していない。…どうして知っているのですか」
「…ふむ、ほんにおぬしは聡いの」
袖で口元を隠し彼女はニヤリと笑う。
その様子に聖はイラついた様子ではぐらかさないでくれと漏らした。
「まず一つ。私は天照様に命を受けてこの地へ降り立っている。…お主のような転生者を探すためだな。…二つ、お主のまとう気配に餓鬼の使った鬼火の気配を感じた。…というか、正直な所私はお主の家が焼けるのを見ていたのでな」
「…!!!!なんで…!!なんで、助けてくれなかったんですか…!」
「言ったであろう。お前達が神と崇める我々神族と神格は基本的にお前達人の子らの世界には干渉しない。…それが我々のルールだからな」
「だからって」
「正直すまないとは思っている」
「…」
神とは人を守るものではないのか。
神を崇め奉ていた時代の人間だった聖には頭を殴られたような感覚だった。
「…さて、衝撃を受けている所悪いがお主に伝えることがある」
「…なんでしょう」
「転生者のおぬしには餓鬼を祓う力があるのだ」
それは昨日餓鬼に対して振るった変身能力のような力である、と聖にはすぐわかった。
理解しかできなかった。
「その力…他の人間達を守るために使わないか?」
「…僕の家族を見殺しにしておいてそういった誘いをするんですか」
「…おうとも。寧ろ見殺しにしたからこそ、この話をしている。…これも立派な干渉だからな」
「…」
自分にこの力を行使しろ、ということは人間に干渉できない自分たちのかわりに餓鬼と戦えということだ。
自分のような人間を減らせと言う事だ。
正直今の聖は神への信仰心はこれでもかというほどすり減ってしまった。
しかしその神はそのルールを破って自分に干渉している状態なのだ。
事態はそれだけ切迫しているという事。
人間をどんどん殺していくなら自分の日常はもっと壊されるという事だ。
手を取らない訳にはいかなかった。
少年は数分考えた後ーー
「…納得いかない事ばかりですが。…大変遺憾ですが。…弟を、この日常を守れるなら…貴方方に力を貸しましょう」
「…そうか。我らはおぬしのように、自分の感情だけに流されず判断を行える者を実に好ましいと思うぞ。…では誓約は成立。明日から力の使い方をじっくりと教えていこう。…楽しみにしているとよい」
「…?はい…?」
こうして聖は黄泉国との戦いに身を投じることになったーー。
【大人と子供の狭間/了】
次章へつづく。