【創作】信じるものは救われろ。【第三話/それは確かに愛でした】#3
「ずっと…ずっとお会いしたかった…皇子様…」
菟道貝蛸皇女(ウジノカイタコヒメミコ)とは、厩戸皇子の第一妃だったが、二人の間に愛の結晶が実る前に亡くなった推古天皇の長女で厩戸皇子のいとこでもある女性だ。
早くに亡くなり、その後利子の前世である刀自古郎目を第二妃として迎え、彼女との子供を跡継ぎとして育てた。
いとこであり、幼馴染であり、そして婚約者として育ってきたが死が二人を引き離してしまった。
そして、アメノウズメの話を信じるならば黄泉国は転生できずにいる死者を中ツ国に送り込んでいる。
「…ウジノ…」
「はい、皇子様…」
「君は、何をしているのかわかっているの…?」
「皇子…様…?」
「君がウジノカイタコヒメミコを名乗るなら…君は転生できていないということだ。…すなわち現世への侵攻にも等しいんだよ…?」
「……」
「僕に会いたかっただけなの?…それとも…」
「…お察しのいい皇子様ならわかってらっしゃるでしょう…?私は…」
利子の身体にとりついた菟道貝蛸皇女はその体を操り、胸元の衣服を悔し気に握りしめた。
「私は、彼女が羨ましかった…!!!』
菟道貝蛸皇女が羨みを語れば利子の背後に蛸のような貝のような不気味な物の怪が現れる。
恐らく菟道貝蛸皇女の名前の由来となった貝蛸…アオイガイと人が合わさったような恐ろしい姿だった。
『あな悲しや あな悲しや…貴方様を愛おしく思うだけだというのに』
『私は斯様なおぞましい姿に…』
『あな羨ましや 羨ましや…愛する貴方様の妻として愛され、子を残したこの女が…』
『その気持ちを抱えた結果 私は人から遠ざかってしまった…』
『貴方様愛しております…愛しております…どうかこの女より私を選んでくださいませ…』
蛸の足のような物を聖にはわせ、その愛情を語る。
普通の人間ならば怖気ずき、腰を抜かすであろうしかし聖は怖気づくことなく菟道貝蛸皇女の異形の姿と対峙した。
『ああ、皇子様…皇子様は私のこの姿を怖がらずに見て下さるのですね…、嗚呼、皇子様…皇子様…』
愛し気に蛸足を這わす菟道貝蛸皇女。
その足を、聖は鷲掴んだ。
「ウジノ…一体誰にそんな姿にされた?」
『皇子様…っ』
「応えて!!」
『誰のせいでもございませぬ…私は…私は…貴方を手に入れたいと願っただけにございます!そうしましたらこの力を手に入れただけにございます!!…彼女の身体を奪い、私は…私は貴方様の隣に並び立つのです!!!!』
「そんな事はさせない!!」
聖はまだまだ使い慣れない転生者の力を用いて姿を変える。
彼女を止めなくては。その強い意思が聖に力を使わせた。
「ウジノ…私は君にこんなことをさせたくはない…!力づくでも、君を止める!」
『嗚呼ア…あな悲しや あな悲しや 私の気持ちを理解して頂けないとは…アアア…では私も貴方様を力づくで手に入れましょう!!』