【創作】信じるものは救われろ。【第三話/それは確かに愛でした】#5
蛸の触手が聖に襲い掛かる。
そんなとき聖と触手の間に入り込んだのはウジノカイタノヒメミコの純粋な霊魂だった。
『皇子様には手出しさせない!』
「ウジノ…!?」
彼女の霊魂は結界のような役割を果たし、触手の攻撃を防いだ。
『皇子様、私思い出しました。貴方に確かに愛されていた事。生まれ変わったらまた貴方と巡り会いたいと思っていた事』
彼女は聖に背を向けた儘、しっかりとした意思を彼に伝えた。
『私が彼のものを抑えている今のうちに、おはやく』
「--ああ!」
彼女に促されるまま七星剣を握りしめ、蛸の怪物に跳びかかり、渾身の力で一刀両断した。
真っ二つに割れたその体からは人魂が複数飛び出していき、何処へかと消えて行った。
「…はぁ、はぁ…あれは…?」
『お見事にございます、皇子様。…あれらは私に憑りついていた生と愛への悔恨を抱きし人の子らの魂の集合体。…その悔恨故輪廻転生の輪に行くことができなかった魂たちです。…先程の一閃で悔恨の想いを切り裂いた為、彼らは漸く輪廻転生の輪に向かう事が出来るでしょう』
「…それは、よかった」
『そして、私も』
「ウジノ…」
彼女の霊魂も輪廻転生の輪に向かうのか、光に包まれ薄くなっていた。
『やっとお会いできましたのに、私が悔恨の心に囚われてしまったばかりにまたお別れですね…』
「そうだね…」
『皇子様、お願いがございます』
「なぁに?」
『今生でなくともかまいません。いつかの輪廻転生の先でまた巡り会う事が叶ったら…、また私を妻にしてくださいませんか?』
「ああ、約束しよう」
彼女の申し出に聖はすぐに頷いた。
聖の返事に彼女は嬉しそうに目に涙を浮かべて微笑んだ。
『ああ、嬉しい。きっとですよ。…待っています。何年、何百年経とうとも』
「…私もだ」
消えゆく彼女に小指を差し出す。
『こちらは?』
「指切りという約束事につかうものだ。互いの小指を絡めるんだよ」
『こう、でしょうか』
「そう、そして…ゆびきりげんまんうそついたらはりせんぼんのーます。ゆびきった♪」
そして絡めた小指をパッと放す。
『今の世にはこんな約束もあるのですね』
「そうだよ」
辺りが暗くなってきた。
そして彼女も、そろそろとどまるのは限界なようだった。
『では。皇子様、きっとまたいつか…』
最期に彼女が見せた笑顔は生前の幸せな頃と同じ幸せそうな笑顔だった。
彼女がいってしまうと同時に、夕陽が沈んでいった。
まるで彼女の人生が終わりを告げたような、そんなタイミングであった。
けれど陽は沈めばまた翌朝昇ってくる。
彼女とまたまみえる日を夢見て感傷に浸る。
少しの後、体を乗っ取られていた利子が目を覚ました。
目をこすりながら状態を起こし、不思議そうに聖に尋ねた。
「んんー…聖、どうしたの?」
「ああ、利子、目が覚めた?」
「…私、寝ちゃったの?」
「そうだよ。夜更かしでゲームでもしてた?」
「そ。そんなことないもの」
「あはは、さ、帰ろ。おばさんが心配するよ」
「そうだね、あんまり遅くなるとまたパパに怒られるわ」
「じゃあ急がなきゃね」
家路を急ぐ二人。
聖は一度だけ後ろを振り返る。
もうなにも、誰もいない。
触手が傷つけた大地すら元に戻っていた。
(これからずっと、悔恨を抱えたひとたちと戦うのか。…今回は知っているものだったから説得できた。…しかしもしもしらない人だったら今回のように話ができるだろうか?)
彼女との戦いを思い出し、足を止めるも。
「聖、はやく!」
友人にせかされて、その考えは長くは続かなかった。
【終】