【創作】信じるものは救われろ。【第三話/それは確かに愛でした】#4
七曜御剣の柄をつよく握り、ウジノカイタコヒメミコと対峙する。
戦い方も力の使い方もよくは知らない。
だが本能であるかのように自然に転生者の能力を行使した。
じりじりと間合いをとる。
七曜御剣は短刀よりわずかに長く脇差程大きさはない真っ直ぐとした刃の刀。
間合いを詰めなければ相手には届かないがウジノカイタコヒメミコは蛸のような触手を伸ばすことで聖が近づいてくることを防いだ。
ウジノカイタコヒメミコとの間合いをとりながら聖は考えた。
この状況を打開する方法を。
ふと聖は気が付く。
ウジノカイタコヒメミコと利子。
両方がウジノカイタコヒメミコの両腕部分にある大きな貝から這い出る職種に絡まれている。
(ーーこれか!)
聖は低い姿勢で一気に走り出す。
ウジノカイタコヒメミコへと真っ直ぐ。
否、少しそれてまずウジノカイタコヒメミコの右へ。
ウジノカイタコヒメミコは皇女であり、更に短い人生だった為戦闘経験は皆無である。
彼女には聖の目的がわからず動きが一瞬止まる。
動揺したのだ。
聖はその一瞬を見逃さなかった。
まず右の貝を一閃で破壊する。
割れた貝の中に見えたウジノカイタコヒメミコの腕は蛸のような触手の吸盤から伸びる糸に絡めとられていた。
ーーまるで操り人形のように。
(読み通りだ!)
聖はその後もうひと太刀で糸を切り裂きウジノカイタコヒメミコの右腕から糸と触手を引きはがす。
そして左の貝、と方向転換し背後から狙うが二度目はないと言わんばかりに左貝と、ウジノカイタコヒメミコの下半身の触手を伸ばし地面を殴打しながら聖の足止めをする。
しかしあと一歩で当たらない。
「--ウジノ、本当の君は優しい筈だ」
当たらないのではない。ウジノカイタコヒメミコが当てないのだ。
何故ならウジノカイタコヒメミコにとって聖の前世である厩戸皇子は「愛する人」だからだ。
男性が女性よりも優位な時代に生まれ育った彼女には男性に手を上げるという行為自体がわからない。
なによりも愛する人に手を上げる等本来心優しい筈の彼女には理解のできない行動であった。
その迷いが攻撃を一手一手遅らせてしまっていた。
「…僕を攻撃しようとすればいくらでもできたはずだ」
走りながら聖は冷静にそれを指摘した。
「それをしないのはどうして?」
『ァ˝ァ˝ァ˝…皇子、様……』
「…君の魂は黄泉国に完全に囚われたわけじゃないからだよね?…--本当の君は、優しい娘(コ)だもの」
そう目を細める。
ウジノカイタコヒメミコにとっては幸せだった生前を思い出す彼の微笑み。
一瞬動きが止まる。
聖はそれを見逃さず反対側の貝も破壊する。
するとウジノカイタコヒメミコに憑りついていた異形と異形に落ちたウジノカイタコヒメミコが分離する。
ウジノカイタコヒメミコは支えを失い地面に落ちる。
そして憑りついていた蛸の異形は宿主を奪われ怒りをあらわにしてその触手で聖をとらえようとどんどん伸ばしてくる。
ウジノカイタコヒメミコの意志はもうそこにはない為明確に当てようと叩きつけてくる。
聖は間一髪という所でその場から跳んで躱すが体は子供。
飛距離は然程長くはなく交わした先に攻撃を叩きこまれ少しずつ体力を削られて行った。
(このままじゃまずい、どうしたら…!)
こんな時子供である時がいつももどかしく感じてしまう。
前世の記憶を取り戻してしまっている聖はなおさらだ。
生前の自分であればもっと、どうしてもそう思わずにはいれなかった。