【創作】信じるものは救われろ。【第二話/新しい家族】#3
初対面の聖と晶に愛結は本当の家族の様に接してくれて、晶はすぐに無邪気に彼に懐いた。
食事も一緒に作り両親が存命だった時を聖はふと思い出していた。
和やかに夕食も終え、月が美しい夜。
晶を寝かしつけた聖は、自分も寝なくてはいけないのにどうしても寝つけず、ふと庭に出た。
すると愛結も庭におり、月を見上げていた。
「ん?ああ。聖君か。」
「愛結さん」
「眠れないのかい?」
「…はい」
愛結は素直に応えた聖を手招きした。
愛結はまるみを帯びた輪郭にもみあげだけ少しはねた黒くて長い髪の青年。
姿から優しさがにじみ出ているような人だった。
「まぁそうだよね。前世の記憶にはふりまわされるし。アメノウヅメさまは突然周囲の人間の記憶とか操ってここに連れてこられるし。」
「…正直言うと…ハイ…」
見透かした物言いに聖が素直に頷いて肯定すると愛結は楽し気に笑った。
「愛結さんは…、えっと永見…貞愛…の転生者、でしたっけ」
「そうだよ。その様子だと永見貞愛を知らない感じだね」
「えっと…はい、すみません…」
「永見貞愛は徳川家康の次男・結城秀康の双子の弟だよ。でも歴史の教科書だと結城秀康も出てこないし、知らなくても仕方ないよ」
「確かに将軍になった三男秀忠は出てきますけど…」
「ね。…当時一度に複数の子供を産むことは畜生腹と言われていてね。忌避されていたんだ。君の時代はどうだったのかな」
「…そうですね、忌み子、とされていたはずです」
前世を生きて居た頃、公家の記録として第12代景行天皇が子が双生児として生まれた際に訝しがり、叫び声をあげたという記録をみたことが聖にあった。
「そうだろうね。貞愛が生まれたのは特に多胎児が生まれることを忌避された戦国時代。まぁ跡目争いが激しくなる原因でもあったろうしね」
景行天皇の子は、そんな伝承の残る双生児ではあったが、生まれた弟は伝承に名だかい日本武尊であった為聖の時代でも好まれてはいないとはいえ、恐らく貞愛の生まれた
時代に比べてまだ強い差別感情はなかったのではないか、と聖は考えた。
「…お辛かった、ですか?」
「まぁ幼いころはやはりね。でも私はこう思う」
「?」
「父…徳川家康は私を殺そうと思えば殺せたはずだ。だから養子に出して生かしてくれたという事はそれなりに愛情はあったんではないか、と思っているよ」
そう聖に話した愛結の笑顔はとても穏やかだった。
目を細め月を眺めながらそう話した愛結の横顔を見て聖は口を開いた。
「愛結さんがどうして、身内でもない僕らに優しいのか、わかったような気がします」
「何を言ってるんだい?」
「?」
思ったままを口にした聖は愛結の言葉に首を傾げた。
すると愛結ぶは目線を月から聖に移して優しく微笑み口を開いた。
「私達はもう家族なんだよ」
「…はい、ありがとうございます」
愛結の言葉に聖は思わず頬を染めて照れてしまった。
そして、心からの礼を述べた。
緊張が溶かされていくような感覚を、覚えたのだ。
そんな照れる聖を愛結はほほえまし気に眺めた後、肩に手をポンと置いて
「さ、明日は学校だろ?そろそろ寝なさい」
「はい、おやすみなさい」
愛結の優しさを感じた聖は部屋に戻り、晶の寝顔を確認した後自分も布団に入り眠りについた。
ーーー翌日・朝
「おはよーございます!!!」
「おはようございます」
聖と晶は朝の支度を済ませ、居間の戸を開ける。
「おはよう、ヒジリ、アキラ」
「やぁおはよう。朝ご飯できているよ」
其処には朝の穏やかな空気が流れていた。
これから「此処」が自分たちの新しいの家族だと感じながら、食卓についた。
【終】